愉快なお銀の日記帳

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剣士のつるぎ 第2幕「かくして数時間後彼女は彼と出会った」

それはクロガネと、刀琥が出会う数時間前のこと。首都プロンテラの郊外で赤い髪の魔術士の少女が相方の女騎士に愚痴をこぼしていた。

「で、さぁ。そのバカがもうすぐ転職試験を受けるのよ。こそこそどこかに出かけてると思ってシロガネに問い詰めたら案の定。今日、受けるって言うのよね。皆に内緒であっと驚かせたいんだろうけど安直な考えだっていうの。

あのバカ、翡翠さまを護る騎士になりたいんだって、一人でそう張り切っちゃってるんだけどねぇ。自分の実力をわきまえなさいって」

「そんなこと言いながら、くーちゃんはなんだかんだといって心配してるんだよね。その剣士くんの事」

 口元に手を当てくすくすと笑いをかみ殺した話し相手の女性は、「ねぇ、貴方もそう思うでしょ」と言わんばかりに愛用しているペコペコの頭を撫でながら言った。

「まぁ、その、幼馴染の腐れ縁って言うか兄弟みたいなもんだし?うちのギルドの、唯一の接近職じゃない。ちゃんと強くなって護ってくれないと困るのよ、あたしが」

 彼女には珍しく、否定もせず照れているのか頬をぽりぽりと掻いた後、「あたしが」という部分を強調して少女は言った。

「ほんと、まったく。「翡翠さま命」で、ほかになーんにも見えてないんだから。しっかりしてると思ったら、あたし達がサポートしてあげなきゃ危なかしくって、任せられないって」

 そこへ彼女達の連れなのか、大きな紙袋を抱えた魔導士の少年が、ぱたぱたと走り寄ってきた。

ぺちーん。

 そして彼女達の数メートル手前で、転んだ。石畳の境に足を引っ掛けたのだ。

「あううっ」

 状態を起こしながら少年が情けない声をあげる。

 荷物のおかげで顔面こそは打たなかったものの、袋の中身の1/3ほどが辺りに散乱して見た目が割とひどい状態だ。

「まったくもうっ。あんたはどうしてそんなにとろくさいのよっ!」

 彼の旧知の間柄である少女は、頭を抱えながら散乱した紙袋の中身をかき集めはじめた。先程まで彼女の愚痴を一人聞いていた女騎士の方は、転んだ少年に駆け寄り、「大丈夫?」と声をかけると手を貸して彼を起き上がらせた。

「いいのいいの、いつものことだから。この子がとろくさいのは。

で、これは何?もしかして買って来たの!?」

 魔術士の少女は、きつい口調で少年に問い詰める。

「あ、あの、そ、その……。アイテムが中々揃わなくてね。ちょっと高かったけれど足りない分は買い足したんだよ」

 消え入りそうな声で「これでも頑張ったんだよ」と一人ごちるとそのまま顔をうずめた。

「はぁ?あたしが半分受け持ったって言うのにあんたは……。

揃えられたあたしより経験豊富なあんたがなんで集められないわけ?まったく……」

 半ば呆れながら彼より年上の少女が言う。

「で、いくらかかったのよ?」

「……さん」

「3? 3000zeny?」

「30.000zeny……」

 申し訳なさそうに吐き出した少年の言葉に、同じギルドのメンバーである少女は「はぁ……」と深いため息をついた。そして、「そのお金までは割り勘しないわよ」と一言告げると

「この袋にみんなまとめて入れて、さっさと渡してきちゃいなさい」

 と、自分がかき集めてきたアイテムと大きめの布袋を1つ、彼に押し付けた。

 「う、うん。いってくるね」と彼は笑顔で応えると、ぱたぱたとまた走り出して、剣士の青年が待つ場所へと向かった。

「ほんとまったく、うちの男共と来たら、揃いも揃って情けないわよね。サポートするあたし達の身になりなさいいって」

 たくさんの愚痴をこぼしても、この魔術士の少女は、支援するのを「嫌だ」と言ったことは無い。ただ、素直に自分の気持ちを伝えられない性格なのだ。

先程の布袋にしても「買った」商品をカモフラージュする為のちょっとしたアイデアである。そんな些細な優しさを、彼らより短いとは言え、何度か狩りを少女と共にする女騎士は知っていた。

 魔術師の少女は、シロガネの姿が完全に見えなくなってから少し気まずそうにぼそりとつぶやいた。

「あー、もし、もしもよ。クロガネに会うことがあったら先輩としてびしっと一発言ってあげてほしいのよね」

 (あたし達じゃ役者不足だから、暇だったら喝、入れに行ってあげて欲しいのよね。暇だったらでいいのよ?)

 刀琥は、そんな薄紅の意図を的確に読み取った。



 かくして数時間後、刀琥とクロガネは出会うこととなる。彼女らの出会いは偶然もたらされたものではなかったのだ。




初出典 2006.3.27以前

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